きざきの雑記

図書館と音大を往復する生活

督促回数という烙印

 

わたしは曲がりなりにも図書館の職員だ。

日々返却された本のバーコードを巧みに読みとり、他館回送資料があれば足元のボックスに放り込み、貸出期限を過ぎていれば利用者に

「次回はもう少しお早めにお返しください」

などと伝える。

 

利用者には様々なタイプがあり、期限を1日過ぎただけでもものすごく申し訳なさそうに謝ってくれる人もいれば、1ヶ月以上も過ぎているのに無言で去っていく人もいる。図書館での態度にその人の人格が表れるというが、全くその通りだ。

 

しかしわたしに無作法な利用者を非難する資格はない。

なぜならわたしは、同じ図書館から過去6回の督促を受けているからだ。

 

わたしの通っている図書館では返却の期限を2ヶ月過ぎると利用者に督促を行っている。電話をかけたりハガキを出したりして早く返却するよう促すのだ。

 

当時は本当に期限内に返せなかった。どんなに頑張ってもだめだった。なにか自分の手には負えない巨大な力によって返却を阻まれていたような気さえする。

 

休日、図書館に本を返しに行こうと家を出る。坂を下って茶畑を抜け、大きな道路を渡ると図書館はもう目の前に見える。小学生のわたしはついに本を返せるということが感慨深く、一歩一歩を踏みしめて自動ドアへ向かう。すると突然自転車が猛スピードで走ってきて、わたしが慌ててよけると自転車も同じ側によける。わたしが反対側によけると同時に自転車も反対側によける。わたしがよけるのをやめると自転車もやめる。自転車のカゴがもうすぐそこまで来ていてわたしの脚はすくみ、もはやこれまで、と目をつぶる。一瞬の静寂。何も起こらない。おや?  と思い目を開けるとそこは自分の部屋のベッドの上で、わたしは横になり布団をかぶっている。

 

 

あまりにも毎回返却が遅く、ハガキを受け取ってからもなかなか返しに行かなかったりしたのでブラックリストに名前が載っていることはほぼ確実だった。罪悪感からしだいに図書館に行きづらくなり、中学校に上がってからは部活が忙しく図書館を利用する機会はほとんどなくなった。そのまま高校でも部活に精を出し、昨年バイトを始めるまでは図書館の存在すら忘れていた。

 

バイトに通うようになってから本を借りて帰ることはあるが、またすぐにシフトが入っているため返却が遅れることはまずない。わたしは更生し、こうして図書館で日々真剣に働くことによってかつての過ちが少しずつ償われていくような気がする。返却カウンターでバーコードを読みとり、貸出カウンターでバーコードを読みとり、利用者登録を受けては本を配架する。汗も拭かずに必死に働き、時折天を見上げては「神様、わたしは頑張っていますよ」と訴える。

 

それでも職員用の端末で自分のデータを開くと必ず、赤い文字で

 

督促回数:6回

 

と表示されている。

昔の囚人たちに押された烙印のように、この文字がわたしのデータ上から消えることはないのだ。