きざきの雑記

図書館と音大を往復する生活

こたつを出した

 

今日こたつを出した。

今までカーペットも敷かずヒーターもつけず、暖を取るには円柱形の電気ストーブに抱きつくしか術がなかった我が家が一気に快適になった。

 

こたつという発明は実に素晴らしい。人間を堕落させる発明は山ほどあるが、こたつは群を抜いている。なにしろなくてもたいして困らないのだ。ただただ快適を求めて発明されたのがこたつである。

 

NHKの朝のニュースに「まちかど情報室」というコーナーがある。その日のテーマにちなんだ便利なアイディアグッズを3つほど紹介してくれるというコーナー。その時点ですでにお節介なのだが、このアイディアグッズというのがどれもザ・お節介というような、なくても一切困らないものばかりである。

 

もしも今この時代にこたつという暖房器具が存在しておらず、ある朝まちかど情報室で何気なく紹介されていたら人々はどのような反応を示すだろうか。

 

さて、本日のテーマはこちら。「合わせて、快適」

訪ねたのは山田さんのお宅。寒い冬は居間でもなかなかくつろげません。そんなときに見つけたのが⋯

山田さん「これです!」

はい、こちらはちゃぶ台に羽毛布団とストーブを組み合わせて中を温かくしたもの。これならすきま風も気にせず居間でぬくぬくとくつろげますね。

「いやーこれはあったかそうですねぇ」「家に1台ほしいですよね~」

 

わたしだったら鼻で笑ってしまう。ちゃぶ台でなく部屋全体を温めればいい、あほじゃないですか、と。しかし、ヒーターやストーブにより部屋全体を温められるようになった現代においてもなおこたつの需要は衰えるところを知らない。(そりゃ多少は衰えていると思うが。)なぜか。それすなわち、おそろしく快適だからである。

 

こたつに入れば体が温まると同時に脳みそもとろけだす。やらなきゃいけないこともやらなくていいような気がしてくる。そのまま寝れば心筋梗塞で死ぬとわかっていてもそのまま寝てしまう。こたつは一種の麻薬のようにわたしたちの脳を溶かし、だらだらとした堕落の沼へ引きずり込むのだ。脳が溶けていては抵抗もままならず、ただただ快適な温もりに身を任せることしかできない。自分の力ではどうすることもできないという都合のいい状況を求めて人々はこたつを買い、組み立て、そして入るのである。

 

幼い頃、冬になりこたつが出るといつも、当時宇宙大好き少年真っ盛りだった兄とともに宇宙船ごっこをした。体を縮めて小さな宇宙船に乗り込み、閉じられた狭い空間で声を掛け合いながら複雑な機器を操作するという遊びである。

 

やがて遊びに飽きた兄がこたつを出ていくとわたしはひとりになった。外界の光や音は分厚い布団によって完全に遮断され、いつしかわたしは本当に宇宙空間を漂っていた。宇宙船の外には冷たく真っ暗な宇宙がどこまでも無限に広がっていて、しかし宇宙船の中はじんわりと温かい。

 

広大な宇宙に取り残された心細さと赤い発熱体がもたらす安心感が溶けた脳の中で混ざり合い、うとうととまどろんでいたところへ誰かの冷たい足が入ってきて、ようやく現実に戻りこたつから顔を出す。そこにはいつもの我が家がちゃんとあって、やはり安心するのである。

 

大人も子どもも脳みそを溶かされ心地よい安心感に包まれて、そんなつかの間の現実逃避があればこそ新年も頑張れるというものだ。